心臓核医学検査で正常の意義

要点
  • 負荷心筋シンチグラフィで正常と判定された例では予後が良好であることを知っておく必要がある。
  • 一般的に正常心筋SPECTの場合、米国でも日本でも、重篤な心事故の発生率は0.6%/年程度である。
 
  • 虚血性心疾患の疑いまたは虚血性心疾患の患者においてはリスクを層別化して治療法を決定する。心臓核医学検査ではリスク層別化を行うことができる。
  • 欧米での報告でも、AHA/ACC/ASNCによる心臓核医学ガイドラインでは、心筋SPECTが正常の場合の重症心事故を年間0.6%としている。
  • 我が国ではJ-ACCESS研究が行われ、虚血性心疾患の疑いで心筋SPECTを施行した>4600例で予後調査が行われた。正常心筋シンチグラフィの予後については、年間のハードイベントすなわち心臓死、非致死性心筋梗塞は0.63%であり低リスクと考えられる。
  • ただし、正常心筋シンチグラフィであっても高齢者、糖尿病合併、高血圧の有無といった要因は心事故発生に影響を与えるため、心筋シンチグラフィ所見に加えて個々の症例でこれらの臨床因子を加味して判断して行く必要がある。
  • J-ACCESSサブ解析の中では、正常心筋シンチの定義は、先に報告されている日本人の正常値の検討に基づいて決定した。3種類の正常の選択基準を表に示す[1]。SSS=Summed Stress Score。

心筋SPECT正常の基準の例(文献1による)

正常の基準による群
原理
1群 SSS≦3
第2群 SSS≦3かつESV正常(男性 <60ml, 女性 <40ml)
第3群 SSS≦3かつESV正常(男性 <60ml, 女性 <40ml)、EF正常(男性 >49%, 女性 >55%)
  • J-ACCESS研究において正常心筋血流イメージングと診断された症例の予後は低リスクであることが確認された。虚血性心疾患の疑いで心筋シンチグラフィを施行された症例の半数近くは正常SPECT症例であり、実際に正常血流イメージングと判断される症例は高頻度に見られる。
  • 正常心筋血流イメージングであると診断する際の注意点
    • SPECTの画像の質が良い
    • 運動負荷で十分な負荷がかけられない場合は(目標心拍数の85%以上)、薬剤負荷を施行する
    • タリウムでは肺の取り込みが増加がない
    • 一過性内腔拡大(負荷後のSPECT像での左室容積拡大)がない
    • Gated SPECTで左室の壁運動異常や収縮時壁肥厚率(wall thickening)に異常がない
  • 負荷心筋SPECTを用いたリスク層別化を我が国の虚血性心疾患患者管理に生かしていく必要がある。臨床医学では虚血性心疾患患者を治療することにより、最終的に心筋梗塞のリスクを減らし予後を良くすることを目指している。したがって、正常症例の予後を考え治療を行う必要があり、リスクという観点からみて一般的には、正常シンチグラフィ症例にさらに侵襲的処置は必要ない場合が多い。
 

参考論文

  1. Matsuo S, Nakajima K, et al. Prognostic value of normal stress myocardial perfusion imaging in Japanese population: a study based on the J-ACCESS study. Circ J 2008;72:611-617.

[SM: 2010.08.01]

心筋SPECTの診断精度

要点
  • 負荷心筋血流シンチの冠動脈疾患の診断能は、冠動脈造影所見との対比において、症例ごとの評価では感度は80-90%程度、特異度は80-95%程度、冠動脈枝ごとの評価では感度は70-90%、特異度は80-95%程度とされている。
  • 心筋血流SPECTと冠動脈CTの所見に乖離を生ずる場合で多いのが、冠動脈CTにおいて狭窄があり、SPECTで血流が正常の場合である。解剖学的な冠動脈狭窄と生理学的な虚血の出現の差異に注意する。
 

冠動脈造影所見との比較

  • 負荷心筋血流シンチの冠動脈疾患の診断能についてはこれまで多くの報告があり、冠動脈造影所見との対比において、感度と特異度は以下のとおりである[1, 2]。
    • 症例ごとの評価では感度は80-90%程度、特異度は80-95%程度、
    • 冠動脈枝ごとの評価では感度は70-90%、特異度は80-95%程度
  • %uptakeや洗い出し率の計測、circumferential profile analysisといった定量的な評価法の導入により診断能の改善が得られるとの報告もある[3-6]。
  • 運動負荷では運動耐容能が予後指標となることが知られているが、運動量が不十分であると診断感度が低下する[7, 8]。
  • カルシウム拮抗剤、亜硝酸剤、βブロッカーなどの服用も検出感度に影響をおよぼすが[9]、薬剤投与時の虚血の程度を評価する目的の場合には薬剤投与下での負荷検査がなされる。
  • 冠動脈造影による狭窄度の定量的評価に比較して負荷血流SPECT所見は局所血流予備能の測定値とより相関するとの報告があり[10, 11]、形態情報とは異なる虚血評価が可能であると考えられている。
  • small heartの症例においては診断能が劣るとされる[12, 13]。 検査システムの空間分解能があまり高くないことに関連すると考えられる。small heart は心電図同期SPECTで評価を行う際の誤差要因のひとつでもあり注意を要する。
 

冠動脈CTとの比較

  • 冠動脈CTの狭窄病変の検出能は冠動脈枝ごとの評価で感度は80-95%程度、特異度は85-95%程度とされ、陰性的中率がきわめて高い(97-99%程度)ことが知られている[14-17]。ただし、石灰化などで評価不可能な部位が除かれている点には注意を要する。
  • 冠動脈CTが正常所見で、SPECTにおいて血流低下を認める場合は、SPECTの偽陽性(アーチファクト等による)もしくは冠動脈閉塞後の自然再疎通やスパズム解除後の心筋ダメージの存在が原因として考えられる。このパターンの乖離の頻度は比較的低く、冠動脈CT正常所見例のうちの10%程度であるとされる[18]。
  • 負荷心筋血流SPECTと冠動脈CTの所見に乖離を生ずる場合で多いのが上記とは逆のパターンで、冠動脈CTにおいて狭窄があり、SPECTで血流が正常の場合である。冠動脈CT異常例の半数程度で見られるとされる[18]。このパターンの乖離の原因として、多枝病変例での各病変部位による虚血の程度がほぼ同等で(balanced three-vessel disease)、相対的なカウント分布で判断するSPECT画像上で異常として認識されない場合もあり得るが、頻度は多くない。むしろ、冠動脈狭窄があっても実際に虚血・血流低下として影響していないことが主な原因と考えられる。このような症例の扱いをどうするかが今後の検討課題である。
 

参考論文

  1. 玉木長良他. 心臓核医学検査ガイドライン Circ J 2005;69:1125-207.
  2. 橋本順. 胸部の最新画像診断情報2010 心臓核医学の基礎と臨床:臨床編 臨床放射線 2010;55 in press.
  3. Tamaki N, Yonekura Y, Mukai T, et al. Stress thallium-201 transaxial emission computed tomography: quantitative versus qualitative analysis for evaluation of coronary artery disease. J Am Coll Cardiol 1984;4:1213-21.
  4. Takao Y, Murata H, Katoh K. Availability and limitations of thallium-201 myocardial SPECT quantitative analysis: assessment as daily routine procedure for ischemic heart disease. Ann Nucl Med 1991;5:11-8.
  5. Nishimura S, Mahmarian JJ, Boyce TM, Verani MS. Quantitative thallium-201 single-photon emission computed tomography during maximal pharmacologic coronary vasodilation with adenosine for assessing coronary artery disease. J Am Coll Cardiol 1991;18:736-45.
  6. Williams KA, Schuster RA, Williams KA, Jr., Schneider CM, Pokharna HK. Correct spatial normalization of myocardial perfusion SPECT improves detection of multivessel coronary artery disease. J Nucl Cardiol 2003;10:353-60.
  7. Meyers DG, Hankins JH, Keller DM, Bagin RG. Effect of exercise level on the diagnostic accuracy of thallium-201 SPECT scintigraphy. Nebr Med J 1992;77:26-8; discussion 9.
  8. Ho YL, Wu CC, Huang PJ, et al. Dobutamine stress echocardiography compared with exercise thallium-201 single-photon emission computed tomography in detecting coronary artery disease-effect of exercise level on accuracy. Cardiology 1997;88:379-85.
  9. Sharir T, Rabinowitz B, Livschitz S, et al. Underestimation of extent and severity of coronary artery disease by dipyridamole stress thallium-201 single-photon emission computed tomographic myocardial perfusion imaging in patients taking antianginal drugs. J Am Coll Cardiol 1998;31:1540-6.
  10. Caymaz O, Fak AS, Tezcan H, et al. Correlation of myocardial fractional flow reserve with thallium-201 SPECT imaging in intermediate-severity coronary artery lesions. J Invasive Cardiol 2000;12:345-50.
  11. Yanagisawa H, Chikamori T, Tanaka N, et al. Correlation between thallium-201 myocardial perfusion defects and the functional severity of coronary artery stenosis as assessed by pressure-derived myocardial fractional flow reserve. Circ J 2002;66:1105-9.
  12. Hansen CL, Crabbe D, Rubin S. Lower diagnostic accuracy of thallium-201 SPECT myocardial perfusion imaging in women: an effect of smaller chamber size. J Am Coll Cardiol 1996;28:1214-9.
  13. Hansen CL, Kramer M, Rastogi A. Lower accuracy of TI-201 SPECT in women is not improved by size-based normal databases or Wiener filtering. J Nucl Cardiol 1999;6:177-82.
  14. Raff GL, Gallagher MJ, O'Neill WW, Goldstein JA. Diagnostic accuracy of noninvasive coronary angiography using 64-slice spiral computed tomography. J Am Coll Cardiol 2005;46:552-7.
  15. Kuettner A, Beck T, Drosch T, et al. Diagnostic accuracy of noninvasive coronary imaging using 16-detector slice spiral computed tomography with 188 ms temporal resolution. J Am Coll Cardiol 2005;45:123-7.
  16. Mollet NR, Cademartiri F, Nieman K, et al. Multislice spiral computed tomography coronary angiography in patients with stable angina pectoris. J Am Coll Cardiol 2004;43:2265-70.
  17. Mollet NR, Cademartiri F, van Mieghem CA, et al. High-resolution spiral computed tomography coronary angiography in patients referred for diagnostic conventional coronary angiography. Circulation 2005;112:2318-23.
  18. Schuijf JD, Wijns W, Jukema JW, et al. Relationship between noninvasive coronary angiography with multi-slice computed tomography and myocardial perfusion imaging. J Am Coll Cardiol 2006;48:2508-14.

[JH: 2010.08.01]

心筋SPECTと心筋バイアビリティ

要点
  • 心筋生存能(バイアビリティ)の定義は、血行再建術によって左室壁運動が改善することを指す。
  • 心筋生存能の評価は、慢性冠動脈疾患の治療戦略決定に際して重要な情報となる。
  • 心筋SPECTにより心筋生存能評価が可能である。
 

心筋バイアビリティとは

  • 左室機能障害と慢性冠動脈疾患とを有する患者においては、血行再建術によって左室機能や症状が改善される症例がある。このような症例では、安静時虚血や一過性の反復虚血によって心筋細胞の正常な収縮性は欠如しているが、細胞膜は健全に機能し、十分な代謝活性を維持しているものと考えられる。この細胞膜の健全性と種々の代謝活性を評価することが重要である。
  • 心筋バイアビリティが保たれている場合には血行再建術後にその領域の壁運動が改善する。核医学的手法により心筋バイアビリティを評価して、血行再建術によって機能的回復が望める心筋を同定できる。
  • 病態生理としては、急性虚血解除後の機能不全である気絶心筋と、慢性虚血による冬眠心筋として理解されている病態が含まれる
  • バイアビリティ評価を行い診療することで死亡率を減らせるという報告もある[1]。
 

心筋血流製剤によるバイアビリティ評価の基準

  • 視覚的には、SPECTにより誘発虚血が見られるか、安静時の心筋集積が比較的保たれているならばバイアビリティは保たれていると判断される。
  • トレーサー集積を定量評価することで心筋生存能の精度があがる。血行再建術後の左室機能改善の予測に201Tlもしくは99mTc-sestamibi,99mTc-tetrofosminのトレーサー集積率が50-60%以上であれば、心筋生存能があり、血行再建術後の機能改善が期待できる。
  • 201Tl心筋血流SPECTによる評価では3-4時間後の安静像(負荷後後期像)あるいは再静注像で出現する再分布現象は心筋生存能の良い指標である。
 

多施設共同研究結果からバイアビリティを読む

  • 負荷時の誘発虚血の所見は固定性欠損よりも左室機能回復の強力な予測因子となる。
  • 99mTc-sestamibi心筋SPECTを用いた我が国の多施設共同研究結果により、血行再建術後の心筋の機能的回復を予測するためにgated SPECTによるQGS解析と心筋血流評価が重要であることが判明した。
  • 非同期SPECTでの心臓への取り込みの他に、gated SPECTでの収縮末期の取り込みもバイアビリティ評価の重要な指標である。
  • 局所壁運動の改善予測を行う場合の最適なカットオフ値は、非ゲート像では約60%、収縮末期マップで約50%であった。
  • 局所での壁運動予測に比して、駆出分画の改善予測の方が予測率が低い傾向がある[2]
    • 駆出分画の5%以上の改善予測には、非ゲートマップでは41%であり収縮末期マップでは34%
    • 駆出分画の5%以上の改善に必要なバイアビリティのある心筋セグメント数は、非ゲートマップで>2セグメント、end-systoleマップで>3セグメント
 

BMIPP心筋シンチグラフィによるバイアビリティ評価

  • 123I-BMIPP心筋シンチグラフィを用いてバイアビリティ評価が可能である。
  • 心筋血流に比較して、脂肪酸代謝が低い乖離所見は、バイアビリティを示す。
 

FDG-PETによるバイアビリティ評価

  • FDG-PETを用いてバイアビリティ評価が行われる。
  • 心筋血流の低下所見が認められても、FDG-PET上で糖代謝が正常かむしろ亢進しているならその領域の心筋は生存していると考えられる。このような血流と代謝のミスマッチ領域をもつ患者は心事故を起こしやすく血行再建が必要性がある。

心筋バイアビリティの核医学的判定方法

方法
原理
201Tl負荷―安静 細胞膜機能(Na-Kポンプ機能)、心筋負荷による虚血と安静時残存血流
201Tl安静―再分布 細胞膜機能(Na-Kポンプ機能)、安静時の残存血流
99mTc-MIBI, tetrofosmin ミトコンドリア機能、残存血流
18F-FDG 糖によるエネルギー代謝の変化
 

参考論文

  1. Allman KC, et al. Myocardial viability testing and impact of revascularization on prognosis in patients with coronary artery disease and left ventricular dysfunction : a meta-analysis. J Am Coll Cardiol. 39:1151-8,2002.
  2. Nakajima K, et al. Prediction of functional recovery after revascularization using quantitative gated myocardial perfusion SPECT: a multi-center cohort study in Japan. Eur J Nucl Med Moll Imaging 35:2038-48,2008.

[KN: 2010.08.01]

心筋SPECTと予後

要点
  • 負荷心筋SPECTにより冠動脈疾患のリスク層別化と予後推定が可能となる
 
  • 日本人対象の多施設研究であるJ-ACCESS研究をはじめとする予後調査研究によれば、負荷心筋SPECTを行い早期(通常60日以内)の血行再建患者を除いた後の患者予後(心筋梗塞症、心臓死、不安定狭心症、心不全などを含む心事故発症)は、心事故発生率が欧米に比べて有意に低く、SPECTから得られる指標によってリスク層別化できることが明らかになった。
  • 心電図同期SPECTから得られる指標とは、負荷後の読影スコアを合計したSummed stress score(SSS)、安静時スコアの合計Summed rest score(SRS)とSSSからSRSを引いて得られるSDS(Summed difference score:負荷によって誘発された虚血心筋量を示す)の他に心駆出率(%)や左室収縮末期容量(ml)などである。
  • SSS値によって層別化された心事故回避カプランマイヤー曲線は図のごとくであり、SSSを正常群、軽度異常群、中等度異常群、重度異常群に分けた場合SSS値が増大するにつれて心事故も増大した。[1]

  • 心筋梗塞症の既往がある非糖尿病患者と心筋梗塞症の既往のない糖尿病患者の主要心事故発生率は、ほぼ同等であり(5.06 vs 5.73%/3年)、糖尿病は心筋梗塞の既往と同等のリスクを持つ。このため心事故を起こしていない糖尿病患者の管理が重要である。
  • 心事故は虚血性のイベント(急性冠症候群)と非虚血性のイベント(心不全や、心臓突然死)に分けられるが、前者における多変量解析の結果から負荷によって誘発された虚血心筋量(SDS)は、最大の心事故後測因子である。[2]
  • J-ACCESS研究を用いて、負荷心筋血流SPECTの結果から本邦における心事故発生率を予測しうるパソコンベースのプログラムとしてHeart risk viewとその早見表Heart Risk Tableがある。
 

参考論文

  1. Nishimura T, Nakajima K, Kusuoka H, Yamashina A, Nishimura S. Prognostic study of risk stratification among Japanese patients with ischemic heart disease using gated myocardial perfusion SPECT: J-ACCESS study. Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2008; 35: 319-28.
  2. Matsumoto, N., Sato, Y., Suzuki, Y., Kunimasa, T., Yoda, S., Iida, J., Nakano Y., Yoshimura, A., Miki, T., Kato M., Matsuo, S., Saito, S., Hirayama, A.: Prognostic Value of Myocardial Perfusion Single Photon Emission Computed Tomography for the Prediction of Future Cardiac Event in Japanese Population: A Middle-Term Follow-Up Study. Circ J 2007; 71: 1580-1585.

[KN, SM: 2010.08.01]

血行再建か内科的治療か

要点
  • 心筋血流SPECTによって安定型狭心症における冠血行再建術の適応決定が行える
 
  • 冠動脈疾患治療の目的は、生活の質(QOL)の向上と長期予後の改善である。本疾患におけるQOLとは胸痛などの症状の軽減であり、長期予後の改善を期待して血行再建または内科的治療が選択されることになる。
  • 血行再建によるQOLと予後の改善効果は主として症状があり高度の冠動脈狭窄を伴う患者において有効と考えられる。その理由は、血行再建が急性冠症候群の半分以上の原因となっている脆弱性プラーク破裂を予防できないからである。
  • 血行再建、内科的療法の治療法選択には心筋血流SPECTによって定量される負荷(運動負荷または薬物負荷)によって誘発された可逆的虚血心筋量の大小が重要であり、虚血心筋量が左心室全体の10%を越える症例では冠血行再建術の予後改善効果が内科的治療を上回る。図および文献 [1]

  • Courage研究は、安定型狭心症患者を至適内科的療法でフォローした場合と血行再建後に至適内科的療法でフォローした場合の心事故(心臓死、心筋梗塞発症率など)に差がないことを明らかにした。またSPECTを用いた血行再建と内科的療法後の可逆的虚血心筋量を定量化では、虚血心筋量の低減効果は血行再建群に高く、治療による5%以上の虚血心筋の低減が患者予後改善の指標であるとされる。[2-3]
  • 注意点として左冠動脈主幹部病変(LMT病変)においてはSPECTによる虚血心筋量が過小評価されることがあるため注意が必要である。[4]
 

参考論文

  1. Hachamovitch R, Hayes SW, Friedman JD, Cohen I, Berman DS, et al. Comparison of the short-term survival benefit associated with revascularization compared with medical therapy in patients with no prior coronary artery disease undergoing stress myocardial perfusion single photon emission computed tomography. Circulation. 2003; 107: 2900-2907.
  2. Boden WE, O'Rourke RA, Teo KK, Hartigan PM, Maron DJ, Kostuk WJ, et al. Optimal medical therapy with or without PCI for stable coronary disease. N Engl J Med. 2007; 356: 1503-16.
  3. Shaw LJ, Berman DS, Maron DJ, Mancini GB, Hayes SW, Hartigan PM, et al. Optimal medical therapy with or without percutaneous coronary intervention to reduce ischemic burden: results from the Clinical Outcomes Utilizing Revascularization and Aggressive Drug Evaluation (COURAGE) trial nuclear substudy. Circulation. 2008; 117: 1283-1291.
  4. Berman DS, Kang X, Slomka PJ, Gerlach J, de Yang L, Hayes SW, et al Underestimation of extent of ischemia by gated SPECT myocardial perfusion imaging in patients with left main coronary artery disease. J Nucl Cardiol. 2007; 14: 521-8.

[NM: 2010.08.01]

周術期リスク推定のための心臓核医学

要点
  • 周術期の心事故のリスクは臨床的なリスクファクタや手術手技の心血管系への侵襲度などの影響を受ける。
  • 術前の心筋血流SPECTは、運動耐容能が4METs未満で、高リスク、中リスク手術を受ける予定があり、所定の臨床リスクファクタを有する症例において有用であるとされる。
 

非心臓手術の術前リスク評価とACC/AHAガイドライン

  • 非心臓手術を施行する際に、周術期に発生する心事故のリスクを術前に予測して予防的な対策をとることは麻酔科医や外科医にとって重要な事項であるが、術前のリスク評価は必ずしも容易ではない。
  • その最大の原因として考えられるものに、周術期の心事故の危険性を増大させる臨床的なリスクファクタにさまざまなものがあり、さらに手術の心血管系への侵襲度が手技ごとに異なるため、これらの組み合わせにより規定される症例ごとのリスクの見積りがきわめて複雑になる点がある。
  • この問題を解決するために提案された方策でよく知られるものがACC/AHAガイドラインであり[1]、術前検査の進め方、術前の治療指針、手術施行の可否、術後管理の指針が示されている。
  • 2007年版のガイドラインで示された手術可否の判断法の概要を示す。

  • 緊急手術でない場合には、表1に示す状況下で外科手術よりも心臓の治療を優先すべきであるとしている。術前の心筋血流SPECTは、運動耐容能が4METs未満で、高リスク、中リスク手術を受ける予定があり(表2)、臨床リスクファクタ(表3)を有する症例においてあるとされている。
表1 Active Cardiac Conditions* (文献1より引用)
不安性狭心症もしくは重度胸痛(CCS class III もしくは IV)、発症1ヶ月以内の心筋梗塞、非代償性心不全、重症不整脈、重症弁膜症
表2 手術の危険度**
(2002年度版ACC/AHAガイドラインより)
高リスク手術 (心事故率5%以上)
  • 緊急手術(特に高齢者において)
  • 大動脈ならびにその他の大血管手術
  • 末梢血管手術
  • 大量の体液の移動かつ/または大量の出血をともなう待機的手術
中リスク手術 (心事故率5%未満)
  • 頸動脈内膜剥離術
  • 頭頚部手術
  • 腹腔ならびに胸腔内手術
  • 整形外科手術
  • 前立腺手術
低リスク手術 (心事故率1%未満)
  • 内視鏡手術
  • 表在臓器の手術
  • 白内障手術
  • 乳腺手術
表3 臨床リスクファクタ***(文献1より引用)
虚血性心疾患の既往、代償された心不全・心不全の既往、脳血管障害の既往、糖尿病、腎不全
 

核医学検査の有用性

  • 高リスク手術に分類される血管手術を中心にリスクの層化において負荷心筋血流SPECTが有用であるとする報告がこれまでに多数なされてきたが、日本人を対象とした中リスク、低リスク手術をも含めたさまざまな外科手術の術前での使用についての報告は限られている。
  • 自験例においては、負荷心筋血流SPECTは高リスク、中リスク手術(特に臨床リスクファクタが複数ある症例)のリスクの層化に有用であった[2-4]。
  • 心電図同期SPECTから得られる機能情報を付加すると、さらに詳細なリスク層別化が可能であった[2-4](図2)。

 

参考論文

  1. Fleisher LA, et al. ACC/AHA 2007 Guidelines on Perioperative Cardiovascular Evaluation and Care for Noncardiac Surgery: Executive Summary: A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines (Writing Committee to Revise the 2002 Guidelines on Perioperative Cardiovascular Evaluation for Noncardiac Surgery) Developed in Collaboration With the American Society of Echocardiography, American Society of Nuclear Cardiology, Heart Rhythm Society, Society of Cardiovascular Anesthesiologists, Society for Cardiovascular Angiography and Interventions, Society for Vascular Medicine and Biology, and Society for Vascular Surgery. J Am Coll Cardiol 2007;50:1707-32.
  2. Hashimoto J, et al. Preoperative risk stratification using stress myocardial perfusion scintigraphy with electrocardiographic gating. J Nucl Med 2003;44:385-90.
  3. Hashimoto J, et al. Preoperative risk stratification with myocardial perfusion imaging in intermediate and low-risk non-cardiac surgery. Circ J 2007;71:1395-400.
  4. Kasamatsu T, et al. Application of support vector machine classifiers to preoperative risk stratification with myocardial perfusion scintigraphy. Circ J 2008;72:1829-35.

[JH: 2010.08.01]

日本における心筋SPECT多施設研究

要点
  • 画像診断による全国規模の多施設研究としては、日本人においてはJ-ACCESS予後評価研究が最初である。
  • 4629例の症例登録とその3年間の経過観察で、心筋血流と心機能が心事故の予測因子となることが明らかとなった。
  • 背景因子としては、糖尿病の合併と、慢性腎疾患の合併が重要な心事故予測因子であった。
 

J-ACCESS研究のの方法

  • 2001年10月より6ヶ月間、全国117施設で、4629名を登録した。
  • 登録基準は、負荷・安静心筋SPECTが施行され、QGSによる心電図同期SPECT解析が可能であることとした。
  • 予後調査の研究期間は3年間であった。
  • 心筋血流の評価には心筋血流イメージング製剤である99mTc-tetrofosminを用いた。
  • gated SPECTを用い、心筋血流と併せて 心機能解析も行った。
  • 負荷時の欠損スコアSummed Stress Score(SSS)、安静時の欠損スコアSummed Rest Score(SRS)、両者の差のスコアSummed Difference Score (SDS)を 定量評価の指標とした。
 

J-ACCESSの主要解析による結果

  • SPECT施行後60日以内の早期血行再建を除外し、4031症例について主要イベントを中心に解析を行った。
  • 心死亡と、非致死的心筋梗塞をハードイベント、入院を要する重症心不全を加えた心事故を主要イベントとして解析した。
  • ハードイベントは2.4%/3年、主要イベントについては4.3%に認められた。
  • ハードイベント群では無イベント群と比較して男性の割合が多く、心筋梗塞の既往が多く、糖尿病が多いという特徴があった。心筋血流SPECTのパラメータではSSSが高く、SRSが高く、左室駆出分画は低く、EDVとESVはより高値であった。
  • Kaplan-Meier解析では、SSSに基づいて正常、軽度欠損、中等度欠損、高度欠損の4群に分けると、中等度以上の欠損で心事故発生が高いことが明らかになった。
  • 正常SPECTでは心事故発生率が低いことは欧米のデータでも指摘されていたが、J-ACCESSデータから見ても、主要イベントは0.8%/年、ハードイベント0.5%/年であった。
  • これに対して、SSSで中等度および高度の異常群では、3年でそれぞれ5.5%および9.2%であり有意の差が見られた。
  • SSSの重症度と3年間のKaplan Meier解析

KaplanMeier

  • 主要心事故に関する予後予測因子
予測因子 ハザード比 p
糖尿病 2.24 <.0001
年齢 1.06 <.0001
負荷時血流欠損 SSS 1.22 .008
収縮末期容積 1.01 <.0001
左室駆出分画 0.98 .038
 

J-ACCESSから学べる事柄

  • 日本人の心事故発生率は欧米での研究と比較して低い
  • 心事故発生には、心機能に関連する収縮末期容積、駆出分画と負荷時心筋血流欠損が重要な因子である
  • gated SPECTにより、リスク層別化が可能であり、とりわけSSS<4ではハードイベント発生が0.5%/年と低い
  • 背景要因のうち特に糖尿病と慢性腎臓病が予後判定の重要な予測因子である

J-ACCESS2および3

  • 無症候の糖尿病を対象とした関連研究J-ACCESS2はその早期予後までが報告されている(下記の文献)。
  • 慢性腎臓病(CKD)を対象とした関連研究J-ACCESS3は2009年より開始している。
 

参考論文:主な論文を以下に記すので関心のある方はご参照ください

  • J-ACCESS研究の研究デザイン
    • Kusuoka H, Nishimura S, Yamashina A, Nakajima K, Nishimura T. Surveillance study for creating the national clinical database related to ECG-gated myocardial perfusion SPECT of ischemic heart disease: J-ACCESS study design. Ann Nucl Med. 2006;20:195-202.
  • J-ACCESSで用いられる方法論と日本人での正常値
    • Nakajima K, Nishimura T. Inter-institution preference-based variability of ejection fraction and volumes using quantitative gated SPECT with 99mTc-tetrofosmin: a multicentre study involving 106 hospitals. Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2006;33:127-33.
    • Nakajima K, Kusuoka H, Nishimura S, Yamashina A, Nishimura T. Normal limits of ejection fraction and volumes determined by gated SPECT in clinically normal patients without cardiac events: a study based on the J-ACCESS database. Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2007;34:1088-96.
  • 予後予測のためのリスク評価表の開発(Heart Risk Table)
    • Nakajima K, Nishimura T. Prognostic table for predicting major cardiac events based on J-ACCESS investigation. Ann Nucl Med. 2008;22:891-7.
  • J-ACCESSの主解析
    • Nishimura T, Nakajima K, Kusuoka H, Yamashina A, Nishimura S. Prognostic study of risk stratification among Japanese patients with ischemic heart disease using gated myocardial perfusion SPECT: J-ACCESS study. Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2008;35:319-28.
  • 全イベントを対象にした解析
    • Nakajima K, Kusuoka H, Nishimura S, Yamashina A, Nishimura T. Prognostic value of myocardial perfusion and ventricular function in a Japanese multicenter cohort study (J-ACCESS): the first-year total events and hard events. Ann Nucl Med. 2009;23:373-81
  • 正常心筋SPECTの意義
    • Matsuo S, Nakajima K, Horie M, Nakae I, Nishimura T. Prognostic value of normal stress myocardial perfusion imaging in Japanese population. Circ J. 2008;72:611-7.
    • Imamura Y, Fukuyama T, Nishimura S, Nishimura T. Normal myocardial perfusion scan portends a benign prognosis independent from the pretest probability of coronary artery disease. Sub-analysis of the J-ACCESS study. J Cardiol. 2009;54:93-100.
  • 冠動脈疾患での価値
    • Hashimoto A, Nakata T, Wakabayashi T, Kusuoka H, Nishimura T. Incremental prognostic value of stress/rest gated perfusion SPECT in patients with coronary artery disease--subanalysis of the J-ACCESS study. Circ J. 2009;73:2288-93.
  • 冠動脈造影を施行した患者におけるSPECTの意義
    • Momose M, Nakajima K, Nishimura T. Prognostic significance of stress myocardial gated SPECT among Japanese patients referred for coronary angiography: A study of data from the J-ACCESS database. Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2009;36:1329-37.
  • 慢性腎臓病(CKD)におけるSPECT
    • Hatta T, Nishimura S, Nishimura T. Prognostic risk stratification of myocardial ischaemia evaluated by gated myocardial perfusion SPECT in patients with chronic kidney disease. Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2009; 36:1835-1841
  • 心不全におけるSPECTの意義
    • Nakata T, Hashimoto A, Wakabayashi T, Kusuoka H, Nishimura T. Prediction of new-onset refractory congestive heart failure using stress/rest gated perfusion SPECT imaging in patients with known or suspected coronary arterydisease: Sub-analysis of the J-ACCESS study. J Am Coll Cardiol Cardiovasc Imaging. 2009;2:1393-400.
  • 検査時の負荷量と予後
    • Ueshima K, Yamashina A, Usami S, Yasuno S, Nishiyama O, Yamazaki T, Nakao K, Nishimura T. Prognostic value of myocardial perfusion SPECT images in combination with the maximal heart rate at exercise testing in Japanese patients with suspected ischemic heart disease: a sub-analysis of J-ACCESS. Ann Nucl Med 2009; 23: 849-857
  • 負荷後の一過性機能障害と予後
    • Usui Y, Chikamori T, Nakajima K, Hida S, Yamashina A, Nishimura T. Prognostic value of post-ischemic stunning as assessed by gated myocardial perfusion single-photon emission computed tomography: a subanalysis of the J-ACCESS study. Circ J. 2010 Aug;74(8):1591-9. Epub 2010 Jun 19
  • 糖尿病を対象としたJ-ACCESS2研究
    • Kusuoka H, Yamasaki Y, Izumi T, Kashiwagi A, Kawamori R, Shimamoto K, et al. Surveillance study for creating the national clinical database relating to ECG-gated myocardial perfusion SPECT of asymptomatic ischemic heart disease in patients with type-2 diabetes mellitus: J-ACCESS 2 study design. Ann Nucl Med. 2008;22:13-21.
    • Nakajima K, Yamasaki Y, Kusuoka H, Izumi T, Kashiwagi A, Kawamori R, et al. Cardiovascular events in Japanese asymptomatic patients with type 2 diabetes: a 1-year interim report of a J-ACCESS 2 investigation using myocardial perfusion imaging. Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2009;36: 2049-2057
    • Matsuo S, Nakajima K, Yamasaki Y, Kashiwagi A, Nishimura T. Prognostic value of normal stress myocardial perfusion imaging and ventricular function in Japanese asymptomatic patients with type 2 diabetes. Circ J. 2010 Jul 10. [Epub ahead of print]
    • Yamasaki Y, Nakajima K, Kusuoka H, Izumi T, Kashiwagi A, Kawamori R, Shimamoto K, Yamada N, Nishimura T. Prognostic value of gated myocardial perfusion imaging for asymptomatic patients with type-2 diabetes: The J-ACCESS II investigation. Diabetes Care 2011 (in press)

[KN: 2010.08.01, 改訂2011.2.15]

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